原因不明の漏水発生についての考察(解決への流れ)

1・・近年、鉄筋コンクリート造りの建造物の寿命年数がクローズアップされ、マンション等で建て替えの話題が出
   る物件が増えてきた様に見られます。只、建て替えの為には入居者全員の退去が前提になるので、個々の
   事情が異なる区分所有者の足並みがそろう事は並大抵ではありません。
   一般には寿命築年数は65~80年と云われていますが,<建て替え適齢期>の築50年を超えるマンションが
   都内で350棟、10年後には4000棟を超えると言われています。この問題は建て替え工法等、建築業界で議論 
   になっていると思いますが、ここへ来てもっと逼迫した事象が発生してきています。

2・・建築物の寿命は上記の通りですが、内部の衛生設備はその寿命の1/3~1/2しかありません(旧基準の材質
   、鉄管等)。よって、給排水衛生設備(ライフライン)の大規模修繕は避けて通れないことです。現状を観察す
   ると、この修繕コストも大きいため、遅々として進まない物件が見受けられます。その結果<原因不明の漏水
   事故>の発生が増加の傾向にあります。この漏水事故について考察をしてみます。


   漏水発生原因は大別すると以下になります

     ①・排水設備からの漏水(下水道)
 2項の漏水で最も多い原因です。この原因の特徴は漏水量の変化と下階へ発生することです。漏水量の
 増減、特に1度乾燥して再漏水の場合は極めて高い確率でこれが該当いたします。特殊な状況以外は漏水
 原因箇所より上部には伝わらない為、漏水発生箇所(漏水原因ではなく、事象として濡れているのが確認
 出来るところ)よりレベルの低い場所は、この発生原因以外の事が考えられます。例外的に排水ポンプの
 ポンプアップなどはレベルは関係ありません。ポンプアップ配管が何処を通っているかも気を付けるべきです。
 ここでいう排水設備とは飲料水以外のもので、主に重力による自然落下をす
 るものを指します。雨水・中水もこのカテゴリ‐とします。

     ②・上水設備からの漏水(上水道)
  この原因の特徴は漏水発生箇所において、乾燥状態にならないことです。漏水原因箇所から漏水発生箇所
  における経路によっては漏水量の増減はありますが、漏水原因箇所に常時、水圧が発生しているため、
  漏水発生箇所の乾燥はほぼありません。この漏水発生原因は比較的、確定判断が易しい部類です。理由は
  水道局の規定で、水道管理図等により経路の確認が容易な為です。古い物件、テナントビル等、専有部
  の経路確認が難しい場合もありますが、配管末端は多数存在する事が多く、漏水原因箇所の特定の前に
  このカテゴリ‐かの判断は、テストポンプにより可視化が簡単です。特殊なものとして消防配管もこのカテゴリ-
  に含めます。止水状態で長年放置されるので(消防点検時は別)、漏水発生箇所になる事例が増えると思
  われます。消防配管の共用部は1F埋設部で漏水する事が多く、施工上の問題と接手部電蝕による経年劣
  化があります。あとはこのカテゴリ‐の特徴として注目すべきは漏水発生状況です。水圧がかかっているの
  でレベルに関係なく配管可能で、マンション専有部で床面から溢水するようなケースは上水道が原因である
  ことが多いです。因みに、湧水も水圧が掛かっているのでこのカテゴリとし、床暖房配管、浴室追い炊き配管
  は下水道とします。 

     ③・結露
 この原因の特徴は水回り以外の場所でも発生する事です。結露の発生原理は空気中の「飽和水蒸気量」
 の多い状態(高温多湿)が冷やされ、その気温の「飽和水蒸気量」を超える温度低下が起こると余分な水
 蒸気が水に変わり発生します。一般的に外部気温が低く室内気温が高い、直かつ、室内湿度が高い時期
 (初秋・梅雨)に起こりやすく、逆に外気温が高い時期(真夏)と外気湿度の低い時期(冬季)には起こりず
 らくなります。漏水発生箇所は外壁境界線上の設備で玄関ドア、窓サッシ廻りなどです。因みに、結露発
 生条件には微気流以下の無風状態が必要ですので、発生箇所は気密性の高い室内側に多い傾向です。
 もう一つの発生箇所は通気管の接手部です。特に吸排気箇所で設置箇所は原則、大気開放場所にある
 のですが、設置箇所が狭小で外気との接続面にあるガラリ等が、経年劣化、埃等により閉塞状態で微風
 状態ですと発生条件が揃います。通気管の材質が経年劣化により発錆するもの、通気系統に多くの部屋数
 がまとまり吸排気が活発な状態なども発生条件となります。あとはケース的には少数ですが、排水管との接
 続部が横引上部でその横引部に勾配不良などで残水が滞留する場合は、経年結露による接手部欠損の確
 率が高いと思われます。
 一般的には結露による水量は微弱と思われがちですが、マンションの気密性は高く上記原因の規模が大
 きくなった場合、想像以上の水量が発生致します。外壁境界線上の設備は結露対策してありますが、経年と
 共に機能低下している場合もあるので確認は必要です。問題は漏水原因箇所が目視困難な通気管系統に
 よるものですが(保温材劣化による給水・給湯管周りの結露量は下階に達するまでの水量が発生することは
 稀です)、修理の為には開口が必要ですので、ケースバイケースで開口順位、場所などを承諾を得ながら進
 めることになると思います。

    ④・設備上の劣化・故障
 上記以外の発生原因とします。浴室コーキングの劣化、屋上防水の経年劣化、窓枠周りのコーキングの劣
 化、屋上ハト小屋ガラリ損傷による雨水漏水、外壁クラック、吸排気弁の故障等、多数の原因が考えられま
 す。重要なことは多数の原因が想像でき解明困難と思われがちですが、漏水原因の根本は【水】であり、建
 物内部の【水】はライフライン系統と雨水、湧水しか存在しないということです。この3種の侵入経路を順
 序立てて考察していくのが肝要と思います。ですが、このカテゴリで最も困難な事例は外壁からの漏水です。
 当社の漏水事例で考えると、漏水原因箇所から漏水発生箇所までの経路は、ほぼ真下付近に落ちますが
 横・縦の最大ブレ幅が3部屋分(402号室から105号室への漏水)あった事例もあるので、漏水発生時の調
 査範囲は3x3部屋分位になります。外壁の漏水原因になりやすいクラックは、幅1mm以上位のものですが
 足場がなければ確認困難で、足場設置場所に原因クラックが存在しないと足場設置コストが無駄になります。
 その為に、発生状況にもよりますが、大規模修繕時までお蔵入りのケースもままあるようです。

     ⑤.過失
 この原因ははっきりしていますが、意外に難しくなる事があります。起こすつもりではない為、発生時に加害
 者側が気付かない場合が多く(洗濯機を自動運転時外出して、排水不良が発生した時など)、気付いたとし
 ても発生場所の残水が少ない時、下階への確認をしない場合があります。中には共同生活に非協力的な住
 人で発生自体を認めない輩も存在しますので、後処理に苦労を伴う事があります。この発生原因の現象は、
 1度過失漏水量が流れ切ると収まりますので、漏水発生時より10日間位、様子を見て何もなければこの原因
 の可能性が高いです。

  

・・・以上のように体系立てて考察すれば、殆どの漏水現象は解明可能ですが厄介な問題もあります。漏水原因
 箇所の多くは壁中、床下、天井裏、埋設部等、化粧仕上げの内側にあるので、開口・掘削の前にその作業を
 施工する理由が求められます。開口・掘削の化粧復旧費(コンクリート・アスファルト・タイル等の土工事、ボー
 ド・クロス等の内装工事)は漏水箇所復旧費よりも高額になるのが常なので、開口・掘削の場所に漏水箇所が
 存在しない場合、何故そこを開けたのかの責任追及が発生するからです。この様な無駄を避ける為に事前の
 ヒヤリング、状況分析、開口場所の判断理由、開口順位、施工依頼者様への事前了解等がとても重要となり
 ます。それと漏水発生状況の大別で重要なのは発生してからの時間です。漏水発生箇所の発生前後の状態
 がはっきりしていて(今迄、乾燥していたものが濡れ始めた)、かつ発生時から1週間以内であれば、漏水原因
 は一つの事が殆どです。面倒なのは建物地下などで、【今迄若干の漏水が発生していたが、このところ漏水
 量が増え臭気も気になるようになった】などの2次災害的漏水現象です。この様なケースは漏水原因が2つ以
 上重なっている場合が多く、発生原因の考察も複雑になります。


このような考察を整理すると以下になります。 (1次対応)

 A ・・漏水発生の日時とそれ以前の状態を判る範囲で確認する事。 
 B ・・漏水量の増減をヒヤリングして可能であれば①~⑤までの仮分類をする事。
 C ・・漏水量の増加が想定される状況であれば、真上の居室、両隣の順番で外部水道メーター
     の検針をして止水状態の確認をとる事。コマの不審作動があった場合、給湯器給水栓を閉栓
     して給湯か給水の判断をする事。確認後②の原因がはっきりとした場合は復旧終了時まで
     閉栓のご協力をお願いする事。いきなりの断水となるので、難色を示す方もいますが、それは
     お客様の判断なのでお任せする事。漏水原因がわかった段階で止水報告をしないと下階漏
     水被害拡大の責任問題に巻き込まれます。
 D ・・②の原因が予想されるのであれば、真上の居室、両隣の順番で目視できる範囲で水回りの
     確認を実施する事。
 E ・・漏水量の増減があり、①が想定される場合、その旨を真上の居住者様に伝えご協力をお願いする事。

 一般的には1次対応はここまでになります。漏水は予期せぬ時に発生しますので、緊急性のものを処理して以
 後の方向性と見積りを作り、施工依頼者の了解が必要になります。大方の場合はオーナーと管理者が分かれ
 ているので、各所に了解を得ながら進める様になります。ここで忘れないで欲しいのは、被害者宅への今後の
 流れについての説明です。この説明を怠ると被害復旧範囲の拡大と居住者間の感情の行き違いの恐れがあ
 り管理者が騒動に巻き込めれるリスクがでてきますので用心してください。

  次の段階として本復旧の仕様の話になります。  (2次対応)

   先程に記した通り予定外の出費になるので、コスト優先での復旧になる場合が多く、機能復旧のための低コ
   スト仕様提案が重要となります。


 F ・・B項目による見立てより、原因確定の為の調査となります。状況に応じ、内視鏡調査・水質検査・流水テ
      スト(色水)・開口調査・水圧テスト・音響調査・ヘリュウム調査(埋設部)・掘削等です。
 G ・・C項目の見立で②の原因が確定したケースは、漏水原因箇所を捜索して復旧する場合と別ルートによる
     配管復旧のどちらが低コストになるかの打ち合わせになります。開口捜索の場合も配管盛替えの場合も
     何処を開けるか、何処を通すかでコストが変わりますので依頼者様との相談を密にしてください。
 H ・・F項目で仕様・予算が確定して施工開始となりますが、開口・掘削をした時に漏水原因が確認されるとそ
     のまま本復旧となる事が多いので、施工前にコストの話をしておいた方が良いと思います。
 I ・・調査・本復旧後の化粧仕様は同等品仕様となりますので、これも施工前に了解を得る必要があります。
     特に内装クロス等は同品番でも経年劣化により必ず違いが出ますので、念を押してください。


   総括

    以上が原因不明漏水についての考察になります。
    実際の作業以外の解決への流れとして要点は4点あります。

 1・・・漏水原因が2つ以上ある事があるので、事前に了承してもらう事。調査結果による復旧見積もりはその
    見積範囲のみの成果として、それ以外のものは別途見積もりになることの念押しをする事。
 2・・・漏水修理は設備系の業種で、仕上げは大工・内装系の業種である。
 3・・・漏水原因が化粧仕上げの内側にあることが多いので、施工前に復旧後のイメージを各方面に伝える事。
 4・・・加害者・被害者・管理者の立場の異なる人々が関わるので、言動・タイミング・内容は特に注意してトラ
    ブル回避を心掛ける事。

 漏水原因箇所と漏水発生箇所が離れていますので、一つの漏水修理が終わってもすぐには可否判断がで
 きません。1週間から10日間位の時間を掛けて様子を見るの繰り返しになる可能性がありますので、現場初
 動時に加害者・被害者の方に話をしておいた方が無難です。確実に漏水修理完了を確認するまでは、化粧
 仕上げの施工に入らない方が良いと思います。同じ箇所に再漏水すると信用とコストを失います。
 この手の漏水事故は一見、取っ掛かりが判らず混乱を招きそうですが、事象原因は単純なので絡まった
 知恵の輪を1本1本ほどく様に、ヒヤリング、観察、分析を冷静に行い体系立てて解決の方法を探してください。


                                 

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          カテゴリー別でも見られますので、ご覧ください。